地獄の黙示録(1979) その1

若い頃は『地獄の黙示録』といったらキルゴア中佐のとこだけでいいぜ!他いらねえ!長いぜ!と言って憚らなかった。あの頃はキルゴア中佐の大暴れだけ4回ぐらい繰り返し見て、完全に満足してスヤスヤ寝たものだ。ところがいい歳になってまた『地獄の黙示録』を見てみると、これが実はキルゴア中佐と同じぐらい、あるいはそれ以上にグッと来る名場面の宝庫だった。かつては中佐の野放図な明るさにのみ楽しみを見出していたけれども、最近はこう何というか完全に煮詰まりきって閉塞感しかないような情景こそが心にしみるのであります。歳はとってみるものだ。
そういう見方をしていくと映画が始まって少しのところで、もう最初の山場がやってくる。サイゴンで腐っていたウィラード大尉がある日呼び出されて極秘任務を貰うところだが、何が最高かって

この人である。コーマン将軍。どう見ても偉い人だが、まあこの人がいきなり苦虫を噛み潰したような顔でウィラードを出迎えた。ついさっきまでホテルの部屋で酒飲んで全裸でアーウー言ってたウィラードとしてみれば完全に眼が泳ぐシチュエーションである。
まあ座りたまえ、昼飯でも食おうじゃないかなんて言われて座ってみるけれども、そんなことを言いながらオッサンは苦虫を噛み潰しているし、緊張のせいか青い顔をした将校(ハリソン・フォード)はさっきからずっと立ちっぱなしだし、あと何の係なんだか全然分からない人↓がジッとこちらを見ているので、

メシなんか喉を通るはずもなかった。

(つづく)