絶望のクソッタレ

今月号の映画秘宝、特集は「史上最強のザ・ローリング・ストーンズ大特集!!」。いいねえ。ストーンズのかかる映画がドバッと網羅されておりますが、まあ改めて一覧を見ると乱暴な映画ばかりだなあ。
でこの特集を読んでいたら、かつてコメディアンのデニス・レアリーが漫談のなかで吠えていたことを思い出した。「もし俺がバーを開いたら小洒落た音楽なんて絶対に流さねえ。流すのはストーンズだ!飲み物はビールとウィスキーしか出さねえ。飲んで泣いて喧嘩してうんこを漏らす場所、それが俺のバーだ!そしてストーンズ。24時間ストーンズだ!」
とまあ、ローリング・ストーンズはそういう野蛮な気分によく合うなあというお話ですけれども。

それからストーンズのかかる作品で思い出したのがスティーブン・キングの小説だった。『最後の抵抗』、昔読んだときは『ロードワーク』という題名で(原題も同じ)、ボクサーの話だろうかと思ったら道路工事のことだった。何と殺風景なタイトルだろうかと思うが、お話はもっと殺風景だった。

1973年、メイン州(たぶん)。高速道路を作るからというので自宅からの立ち退きを勧告された主人公のオッサン。長らく勤めたクリーニング工場は家の近所だったが、これも道路工事の都合で取り壊しが決まっていた。何かよく分からんが勝手に決めやがって冗談じゃねえよ、と依怙地になって、俺はこの家から死んでも動かん!と宣言したら仕事をクビになった。ついでに女房も愛想をつかして出て行った。ということでもう何もする気がなくなり、オッサンは毎日家で酒飲んで煮詰まるだけの日々を送るのだが、まあいろいろ考えてみるに人生こうなっちゃったのはあの道路工事のせいじゃねえか、と思い至る。というわけで地回りのやくざから大量のダイナマイトを購入、深夜の工事現場に侵入してこれを爆破するのだった。これで若干テンションは上がったが暫く経つとまた気分が落ちてくる。しょうがないので毎夜車でそこらへんをブッ飛ばしているとヒッチハイクのお姉ちゃんを拾い、ちょっと色っぽい展開になってみたりもした。それでもうこの際、この姉ちゃんとどこかに行ってみようかなあと、貯金をはたいて旅行にでも行って、それから……ここに帰ってくるのか……と絶望に打ちひしがれているうちにまた1人ぼっちになり、もうどうだっていいやこの野郎!とヤケクソになって、しょうがないから家にいるのだった。何だこの話。
でこのオッサンがある日、ちょっと気分転換に音楽でも聞こうかなあ、と思ってレコード屋に行くんですね。それまで音楽なんてあんまり聞いたこともなかったが、店員に薦められたんだか何だか、ストーンズの『レット・イット・ブリード』とクロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングのアルバムを買って帰る。さっそく家に帰って聞いてみるとCSN&Yのレコードは何だか女々しくて、どうにもこうにも無性に腹が立ってきたので膝で叩き割ってしまった(手許に本がないのでさっきからうろ覚えを書いてますが、この「女々しかったからレコードを膝で叩き割った」という描写はかなり忠実に覚えていると思う。読んだのはもう10数年前ですが、それぐらいツボに入った美しい文章であった)。
それでストーンズだ。ストーンズがこのオッサンの琴線に触れた。さっきのCSN&Yとは違って、『レット・イット・ブリード』は実によかった。何だか血と暴力の匂いがした……とか言ってオッサンはそれから毎日、このストーンズの69年のアルバムをヘビーローテーションすることになるのです。家で。
(『グッドフェローズ』とか『太陽を盗んだ男』とかいった映画を見ていて思うけれども、まあストーンズは追い詰められた男によく似合うことだ。後者はストーンズの曲こそ流れなかったが)
オッサンは1曲目の『ギミー・シェルター』から街を荒れ狂う暴力にウットリし、あるいは『ミッドナイト・ランブラー』など聞いて、夜中にナイフ持って街をうろつく凶暴な男だなんて、まるで俺のことじゃないかとウットリしたりする。駄目な人ですね。
しかし『レット・イット・ブリード』がそういう、人生のドン詰まりに聞けばもう何か知ったこっちゃねえよバカ野郎!という気分になるアルバムだというのはよく分かる話です。ということでオッサンもついに一念発起。やくざから買ったダイナマイトがまだ残っているので、これを抱えて自宅に篭城するのだった。(オッサン自身が電話した結果、えらい騒ぎになり)警察も職場の人もテレビ局もやってきて家を取り囲む中、オッサンはとりあえずまたこのレコードに針を落とす。B面、8曲目の『モンキー・マン』がフェイドアウトして、アルバム最後の曲『無情の世界』が始まった。「望んだものが必ず手に入るとは限らない」ストーンズが歌う。そうだよなあ。とオッサンはぼんやり思う。そして歌は続いた。「でも何かやってみれば、いつか必要なものが手に入る」
ということでオッサンも何かやってみるのです。何をやってみるんだと言って、まあダイナマイト抱えて篭城すればこうするしかねえなあ、という幕引きですけれども、そこはご自身で確かめていただきたい。
ロードワーク』改題『最後の抵抗』、これはスティーブン・キングが81年にリチャード・バックマン名義で発表した、まああまり顧みられることもない作品でございますが、まあ1人の男の生活が次第に煮詰まりきっていくまでをローリング・ストーンズの音楽に乗せて描いた大名作ですよ。というわけでフランク・ダラボンか誰かが来年あたり、これを映画化するといいと思った。