THE SENTRY:REBORN (その3)

ご無沙汰しております。

ご無沙汰ついでに、やりっ放しで(しかも途中で関係ない話を始めて悦に入るという最悪なパターンで)放置していたお話を続けたいと思います。

マーベル・コミックのスーパーヒーロー、セントリー。爆発する太陽100万個分のパワーを持つ、何だかよく分からんがまあタウリン1000mg配合よりも凄い男ですけれども。しかしこの人がメンタル面にちょっと、というか相当な問題を抱えていた。スーパーヒーローには欠かせないスーパー悪役、いわゆるバットマンに対するジョーカーですね。まあヒーローも悪漢もコインの裏表、善があって悪があり、その逆も然りと。そんな話をよく聞きますけれども、セントリーの何が厄介だって最強の敵が自分自身の中にいるんですね。セントリーことロバート・レイノルズの暗黒面、時折それがヴォイドという形をとって現れてくると。最強のヒーロー、その裏返したるヴォイドは当然最強の悪役で、なおかつそれがいつ顔を出してくるか分からんと。そんなわけでセントリーは誰からも腫れ物に触るような扱いを受けてきたわけです。


ヴォイド↓ 意外と適当なデザイン


それでまあ、同じようにスーパーパワーを持ちながらそれを制御できず、だいたい訳が分からなくなって大暴れしては周囲から疎まれているのが超人ハルクだと。この緑の巨人とセントリーが不適合者同士、友情を育むのは当然の成り行きだった。今回ネガティヴ・ゾーンなる異次元空間に赴いて敵と戦わねばならんセントリー、しかし自分1人ではちょっと苦しいと。そう考えて洞窟に隠れ住むハルクを訪ね、協力を要請した。何だかよく分かんないけどマブダチの頼みだから、ハルクは二つ返事でこれを引き受けた。ここまで紹介したのが実に2年前、怠惰もここまでくるといっそ清々しいよね!と、俺は自分を正当化した。

かくしてネガティヴ・ゾーンに特攻するハルクとセントリー。この最強タッグで並み居る敵をちぎっては投げ、獅子奮迅の活躍を見せる。いいねえ!しかしその先で2人を出迎えたのはセントリーの暗黒面たる超悪役、ヴォイドであった。

思いがけず出てきたヴォイドに虚をつかれ、超人ハルクはあっという間に捕縛される。予想外の展開に狼狽、成すすべもないセントリー。そしてハルクは全身の骨を砕かれるのだった。

このままでは2人とも殺られる!セントリーはハルクを連れ、ネガティヴ・ゾーンから辛くも脱出。全身複雑骨折の憂き目に会ったハルクはその後

セントリー家の台所に倒れ、じっと回復を待つのであった。
このコミックが発表された当時、超人ハルクが全身の骨を折られて戦線離脱ってどういうことだ!痩せても枯れてもハルクだ!緑の巨人だ!そんなに弱くねえよ!ふざけるな死ね!ということでずいぶんな悪評があったと記憶している。気持ちは分かる!分かるんだが、今回のハルクはいつものハルクじゃないんですね。ハルクことブルース・バナー博士は幼少期にロクデナシの親父から随分な折檻を受けたと。それでハルクの深層心理には理想的な父親を求める気持ちがあるんだと。だからこそ自分の理解者たるセントリーの前では子供のように従順になるんですね。力は強いけれどもセントリーと一緒にいる限りしょせん子供だから、いつもよりずっと無力だと。そう考えればハルクのキャラクター造形が普段と全然違う、ということにも頷けはしまいか!俺は頷く!全力で!ヴォイドに締め上げられるハルクが父親たるセントリーに助けを求める、「ゴーーールデンマーーーン!」という悲痛な叫びを聞いて泣かずにいられるか!なおかつその後、瀕死のハルクが他所ん家の台所で何週間も横になり、怪我の治癒をひたすら待つという、何この手負いの熊!そんな姿を見て泣かずにいられるか!

というわけでセントリーも自分を親と慕ってくれた巨人を再起不能に追い込み、それはもう大変な責任を感じるわけです。自分が作り出した敵とは自分が白黒つけるしかない。遅まきながらそう悟り、このさい大胆に端折りますがいろいろあって、ついにヴォイドを太陽に投げ込んで始末するのです。かくして平穏を取り戻したセントリーの生活。不仲だった女房とも再度絆を深めます。ようやく回復したハルクが、その姿をにこやかに見守るのだった。完!

ハルクのいじらしさがとにかく際立ったアメコミ・シリーズ『THE SENTRY:REBORN』でした。しかしセントリーとハルク、マーベル・ユニバースの2大鼻つまみ者が辿る数奇な運命はまだまだ全然これじゃ終わらないのだった。ということで次回は近いうちにアメコミ巨篇『WORLD WAR HULK』を紹介します!ハルク世界大戦!すごいタイトルだ!