sleeping in a jar

いやしかし、ここへ来てまさかの連続更新という展開に自分でも驚いております。こんなペースで更新していたら年内に死ぬかもしれない!丹下段平がリングサイドで「ばか野郎 立つんじゃねえ〜」と怒鳴っているような状況ですが。


その流れで話をすると、丹下段平といったら「あっ知ってる!立て!立つんだジョー!の人でしょ?」という認識が居酒屋あたりでは一般的だと思う。いつも矢吹丈にリングサイドから檄を飛ばしている土方風の人だと。しかし丹下のおっちゃん(あおい輝彦風に発音すると「おっつぁん」)が「立て!立つんだジョー!」と劇中で発言したことなど、本当は滅多にない。実際のところは檄を飛ばすどころか「立つんじゃねえ 殺されちまうぞーっ」とか「ばか野郎 休んでろ〜」とか「わ わしのジョーが……」とか、弱気なことばかり言っていた。もともとは将来を嘱望されたボクサーでありながらその道を絶たれて土方に身をやつし、今はもう矢吹丈という天才に夢を託すしかない。だからこそ矢吹には勝ってほしいが無理をさせるわけにはいかない。というエゴイストが丹下段平という男なのだ。そんな大事なことも忘れて「あしたのジョーでしょ?昔読んだ読んだ!」とか飲み屋で抜かしてんじゃねえぞこの野郎!という台詞を飲み込めるほどには、俺も大人になった……


それはそれとしてここで話していた佐野さんという親父、この人についてまた別の話をさっきトイレで思い出したので書いておく。
佐野さんは赤黒い顔をした長身のオッサンだった。いつも17時ごろになると、会社で仕事中の俺を新橋に連行した。ある昼飯どきには近所の食堂で、白いご飯に日本酒をかけたものをお茶漬けと称して食っていた。この人が何の仕事をする係だったのかは今になっても分からないままだ。
もう10年以上前のことになる。その日の夕方もこの人間のクズと一緒に、新橋の立ち飲み屋でクソ不味い何とかハイを飲んでいた。その頃の俺が20代前半、オッサンは当時すでに還暦を過ぎていたから、とくに共通の話題があるわけでもない。俺が昨日見たエロビデオについて熱っぽく語り、佐野さんが気のない返事をした後はふたりとも黙って、ひたすら無為な時間を過ごしていた。
すると突然、佐野さんが「俺はなあ、電車乗るときに金払ったことがねえんだよ」と言う。「いつもタダだからな。ウヘヘ……」そうなんですか、と俺は答えた。嘘じゃねえぞ!と佐野さんは声を荒げた。
「何なら見てみるか?」佐野さんの息は臭かった。このまま駅まで様子を見について行けばそのまま帰れると思い、俺はその話に乗った。まだ19時をちょっと回ったところだった。
そして烏森口。「見てろよ」もともと赤黒い顔が、酒のせいでもはやレンガ色に変色した佐野さんは意気揚々と改札口に歩いていった。当時すでに自動改札が導入されていたように記憶しているけれども、手ぶらのオッサンは敢えていちばん端の、駅員のいる改札を目指した。俺がぼんやり眺めていると、確かに佐野さんは「ヨッ!」と右手を挙げて、そのまま駅員の横を抜けた。俺は多少感銘を受けながら改札を通り、ブッブッと小刻みに屁をひりつつ歩く佐野さんを追いかけた。
「凄いっすね……どうやってるんですか」俺が聞くと、佐野さんは得意満面にこう答えた。
「俺はなあ、刑事ってことになってっからな」


この、俺とは親子以上に年の離れたオッサンは社員旅行の宴会場で下半身を露出し、お粗末なチンコをその日出たカニの鋏で横から挟まれていた。血が出ちゃったじゃねえかバカ野郎!とチンコをつまんだ別の親父を怒鳴っていた佐野さん。もう死んじゃったと思うが元気にしているだろうか。