ターミネーター : ニュー・フェイト (2019)

 ご無沙汰しております。ご無沙汰している間に新しい『ターミネーター』が公開されてしまいました。4年前にもここでシリーズ第5作『ターミネーター : 新起動』について、飲み屋の酔っ払いみたいな様子でアレコレ書いたものです。せっかくなので今回もシリーズ最新作にして『ターミネーター2』の続き、『真(チェンジ!)ターミネーター3』こと『ターミネーター : ニュー・フェイト』に関して、飲み屋の酔っ払いみたいな様子で書いておきたいと思います。

 

 

この先、本篇を死ぬほどネタバレしています。ご注意ください!

 

 

 さてこの『ニュー・フェイト』。『ターミネーター2』を最後にシリーズを離れた本家本元の創業者、ジェームズ・キャメロンが製作総指揮で帰ってきて、3・4・5を丸っと抹消してまったく新しい物語を始めます、と。『ターミネーター』と聞けばどんな内容だろうが映画館にアイルビーバックしてしまうこちらとしてはですよ、そりゃ何をおいても駆けつけないわけにはいかないし、ここまでブチ上げるからには予想を完全に上回る何かがあるんだろう、あるに違いないと思ったわけです。

 そして劇場から出てきた俺の胸に浮かんだ言葉。それは「あ……新しくない!」ということでありました。

 というか未来からやってきた殺人ロボから逃げる、というお話を(第4部を除いて)延々繰り返しているのが『ターミネーター』シリーズの楽しみであって、別に新しくなくともそれは全然構わないのですが、ただ今回は創業者が帰ってきて「ワシのいない間に作った分は全部ナ~シ!」と言ったわけじゃないですか。どこの誰が作ったか知らんが全然分かっとらん、やり直し! という話で。何だかんだ愛する第3~5部をなかったことにされるのは納得いかないけれども、本家がそこまで言うなら……と思ったわけです。もしかしたらこれぞ『ターミネーター』! というものを見せてもらえるかもしれんし、キャメロン不在期間中の作品を毎度観てそこそこ、いや結構感動していた自分の不明を恥じることになるかもしれん。しかし蓋を開けたらどうだったかといえば、それがまさにさきほど書いた「あ……新しくない!」ということになります。

 映画は『ターミネーター3』、『4』と『新起動』を全部無視しつつ、実はそれらが登場させた新要素をちょいちょい摘まんで物語を構成しています。金属製の骨格にリキッドメタルのガワを被った新ターミネーター(T3)、人間だか機械だか判然としない新キャラクター(4)、すっかりジジイになったT-800の悲喜こもごも(新起動)、などなど。存在しなかったことにされながら、個々のイノベーションだけを本家に収奪された過去作が気の毒な感じになってくる。今回はスカイネットも既になく、「審判の日」も回避された世界ですから、じゃあどういう強敵とか危機が現れるのかといえばですよ。従来とは違う経緯でやっぱり人類は滅びて、スカイネットとはちょっと違うけどけっこう同じ人工知能が地球を支配していると。まあそういうことで納得してください、と言う。こちらとしたってどんなものでも飲み込んだろうと思ってますけど、にしてもちょっとねえ。工夫がなさすぎるんじゃないすか。と言わざるをえない。しかもそのうえに配置された各要素がですよ、さきほど並べたように過去作から持ってきたものとあっては。ねえ……やはり3作品が気の毒でならん。

 気の毒といえばシュワルツェネッガーもそうで、この人はキャメロンもリンダ・ハミルトンも去ったあとで第3部とか5部に頑張って出演していつものことをやり、そのたびに一部からよくやるよと嘲笑されてきたわけです。リンダ・ハミルトンにおいては『T3』の脚本を読んだものの、「ドラマがないから」という理由で出演を拒否したというエピソードもある。あったじゃん!ドラマ!何を読んでたの!節穴か!まあそれはともかくハミルトンが今回28年ぶりに重い腰を上げてくれたので、シュワルツェネッガーはクレジット1番めを彼女に譲ってですね。タイトル前にアーノルド・シュワルツェネッガーの名前がまずドバーン!と出てくる時代ではもうないんだな……と思って、寂しい話ではありますけど。ただ何か本当に必要だったのだろうかT-800。という役回りでですね。いろいろ上手くいってれば何でもいいんですよ。だけどその何か……ねえ!

 ていうか映画が始まるなりこりゃ新しくないなあ、と思ったのはですよ、ジョン・コナーが出てくるなり死ぬじゃないですか。コナーが死んでる、というのも『T3』で通った道で、あっちで亡くなっていたのはサラ・コナーのほうでしたけど。今回はジョン・コナーが死にました。どっちか死なないとお話を先に進められないのか。ていうか初っ端で前作の主役級が死ぬ!という展開を見ていて、まるで『エイリアン3』みたいだなあ、と思いましたけど、『エイリアン2』の監督キャメロンはたぶん同『3』を観てカンカンに怒ったんじゃないかと思うんですよね。俺のキャラクター殺しやがって、みたいな。本当のところは分かりませんし、これは俺の超憶測ですけど。だけど同じことを自分でするんだもんなあ。いいのかなあ、と思いました。

 あとやっぱりシュワルツェネッガーの扱い。というかT-800の扱い。じつは今回、映画を観にいく前日に、一足早く本作を観た高橋ヨシキさんから「ターミネーターは放っておくと自我に目覚めていい人になるの?じゃあ命を狙われても20年ぐらい逃げ切れば仲良しになるんじゃないか?」と聞かれてですね。何を言ってるんだろう、そんなことあるわけないじゃないすか、と思いながら「『T2』でもプログラムをいじって感情を身につけるようになったじゃないですか。そういうことじゃないですかね?」と返した。ところが翌日になって映画を観てみたらですよ。プログラムの改変も何もなく、本当に野良ターミネーターになってしばらくしたら勝手に自我に目覚めて、世のため人のために生きるようになったと。あるわけのないことがあってしまった。まあジョンを殺したT-800とサラ・コナーのその後の確執というドラマのためには必要なセットアップだったかもしれんですが、じゃあそのへんの理屈を!しっかり!説明しなさいよ!ろくな説明もなく、これはこういうことだと飲み込んでくれ、と言われても困ってしまう。もちろん老ターミネーター(4年ぶり2回め)に扮したシュワルツェネッガーはよかったです。が、だいたい俺がシュワルツェネッガーを腐すわけはないので。

 何から何まで文句をつけたいわけではなく、サラ・コナーの貫禄なんかは28年待った甲斐がありましたし、あと新キャラクターの戦士グレイス(マッケンジー・デイヴィス)は素晴らしかったですね。未来から裸一貫やってきてですね。無理な肉体改造が祟ってすぐ具合が悪くなるんですが、フラフラになりながらも必死に頑張ってですね。サラ・コナーやT-800はオマケ的に出しといて、本筋はこの人だけでよかったんじゃないかと思うぐらいです。というか今回の映画では『フォースの覚醒』的に世代交代が行われて、新『ターミネーター』サーガへの橋渡しが行われるんだろうな、と予想していたんですね。旧キャラクターたちはそれぞれにいいところを見せてオールドファンを満足させつつ、ハン・ソロやルーク・スカイウォーカー的に退場していくのだろう、と。ところが新登場のグレイスさん、さんざ頑張った挙句に尊い自己犠牲でもって死んでしまうじゃないですか。しかも腹から電池をえいやと出してですね、これで敵ターミネーターにとどめを刺すという。だから!それは!『T3』で!やった!じゃん!新しくない!それはそれでまあいいとして(よくないけど)、このグレイスさんが感動的に果てるわけですが、そのすぐ後にシュワルツェネッガーが同じように自己犠牲を払って機能停止するという場面があるので(4年ぶり4回め)、新しいお姉さんの最期がまあちょっと、いやむしろまるで盛り上がらない。ていうか同じ役割のキャラクターがふたり、ほとんど間を置かずに同じように死んでどうするんだと。しかも新しいほうが先に死んじゃった。これで世代交代という話は何となく有耶無耶な感じになります。まあでも新救世主たるダニーさんが生き残りましたんで、ここから満を持して新しい物語が始まる……と思いきや、旧救世主の母サラ・コナーもまんまと生き残りますね。言っちゃ悪いですけど、サラ・コナーの物語やキャラクターはもうこれ以上広がりようがないと思うのですが……。まあ未来からきたグレイスさんは亡くなってしまいましたが、劇中の現在における彼女は健在なので、厳密には死んだわけではない。ので、今後も出そうと思えば全然出せるんでしょうけど、だとすると未来からやってきて死にました、というドラマはちょっと、いや相当薄味になってしまったな、と思わざるを得ない。

 

 結論としてはこれがアリなら『ターミネーター : 新起動』だってアリじゃん、ということです。見どころはたくさんありますが、総体としてのヘッポコ具合は『新起動』とどっこいどっこいなんじゃないかというですね。短いドラマを間に挟んで、あとはひっきりなしに大破壊アクションをやっていた『T3』なんかもっとアリじゃないか(最新作はドラマパートが毎度長く、そこが『ターミネーター』シリーズとしてはけっこう問題だと思います)。『ニュー・フェイト』もこれだけいろいろ言わせるんだから悪い映画じゃないんです。ただ事前に聞かされた触れ込みがもろもろよくない方向に作用してしまったのかなという……。本作でもって今度こそ新シリーズを始めよう、という計画は興行不振などもあって先行き不透明ですが、もし今回もまたこの1回で終わってしまった、という話であってもそれはそれで味わい深いことになるのではないでしょうか。終わらない物語……というか、入り口あたりで何度もやり直して全然始まらない物語、というところに何ともしれんSF感もある。ということでキャメロンやハミルトン、およびシュワルツェネッガーが今後どう出るにせよ、新『ターミネーター』がやってきたら俺は観に行くしかないのです。皆さんだってそうでしょう?さんざんブーブー言いましたが、まあそうやって文句をたれるところまで含めて今回は(今回も)楽しみました。ではまた後日。

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よく頑張った