Maggie (2015)

ご無沙汰しております。と書くのも白々しいほどの連続更新、いったい俺の身に何が起こったのでしょうか。このさいはっきり言いますが単なる現実逃避です。

さて、先日家に帰ったら米アマゾンからブルーレイが届いておりました。普段は何が届いたところでフーンとか言って本棚に投げ込んでおしまいです。遠足は家に帰るまでが遠足だと言いますが、輸入DVDは頼んだものが家に届いたところまでが輸入です。むしろ届いたものを観たら負けだと思っている。輸入DVDとかブルーレイとはそういうものです。しかしこの日ばかりはそういうわけにはいかなかった。なぜかといえば届いたのがアーノルド・シュワルツェネッガー最新作だったからです。

改めて解説するのもアレですが、シュワルツェネッガーも一度は政治家になるとか何とか言って俳優をセミリタイアした男です。政治家転身前の最後の仕事『ターミネーター3』(2003)は、まあ俺は好きですが(というかシュワルツェネッガー主演作で嫌いな映画なんか俺にはないわけですが)、しかし世間的にはうんこ以下という評価を受けている作品であった。そういうたいへん微妙な映画を最後っ屁的に放ち、みんなを何とも言えない心持ちにしたまま政界に消えた。これでもうあっちの世界の住人になってしまったんだな、シュワルツェネッガーも……と淋しい気持ちになりつつ、まあでもおそらくオーストリアのド田舎から出てきたその日からワシャ世界を獲るんじゃと、そんな野望を持っていたわけですから。それはそれで応援してやるしかない。俺はこの場所に留まって、これまでに御大が残してきた作品を宝物のように大事にしていくしかない。たとえそれが『ラスト・アクション・ヒーロー』とかそういう寝小便以下の作品ばかりであったとしても。早くも何を書いているんだか分からなくなりましたが、とにかくシュワルツェネッガーと決定的に道が分かれたなあ……と痛感せざるを得ない瞬間がかつてあったわけです。彼はいずれ大統領になるかもしれない。御大がそうやってサクセスロードを驀進する間に俺はまあ何だ、えーとラーメンとか食ったりするのだろう。とにかくこうなったらそれぞれの人生を生きるしかない。そう思った。
ところがシュワルツェネッガーは帰ってきた。詳細はまたいずれお話ししますが、いろいろあって政治家としてのキャリアが終わってしまったので、まあ俳優として帰ってきてしまった。誰もが羨むような家族にも一気に去られて、去られただけならまあいいがたぶんお金とかも入れなきゃいけない感じになった。しかも結構な額を。
そういう状況で、シュワルツェネッガーがさあどうするかと言ったらもう映画に出るしかない。そうやって復帰して以降の作品群には、実は外れがないわけです。いろいろ出てますけどいずれの作品も確かな満足を与えてくれる。『ジングル・オール・ザ・ウェイ』とか出ちゃって、観ているこちらも思わず死にたくなってしまったようなシュワルツェネッガーはもういない。心を入れ替えて、何かが吹っ切れたような感じでアクションの佳作にビシビシ出ている。いろいろ頑張っちゃって偉いなあ! と俺は思います。
これもまた改めてお話ししますが、最新作『ターミネーター : 新起動』だって凄くよかった。まあ中学生が書いたような脚本とかケレン味も糞もないような演出とか、または90年代中盤かと思わざるを得ないような特殊効果とか、問題は数えきれないほどありました。ありましたが、それらをあげつらって映画を腐すのは間違っている! なぜかといえば『ターミネーター : 新起動』はすっかり老いぼれて完全なるポンコツになったアーノルド・シュワルツェネッガーが、老体に鞭打って繰り広げる大活躍を見るための。それだけのための映画だからです。脚本がダメだったよネとかいうような意見にはこのさい冗談じゃないよと言いたい。だいたいみんな傑作だとか言っている『ターミネーター2』だってねえ、あんなの筋立てなんかあってなかったようなものですよ。未来から来た殺人マシーンが大暴れする、さらにはまた別の殺人マシーンと組んずほぐれつの死闘を繰り広げる、それでみんな大喜びしたわけじゃないすか。そう考えれば『ターミネーター3』だって、今度の『新起動』だって殺人マシーンが何かいろいろガチャガチャぶっ壊しながら大バトルを繰り広げているんだから全然問題ないじゃないか。何でみんな『マッドマックス』とか『ジュラシック・パーク』とかの最新作にはやんやの喝采を贈るくせに、新しい『ターミネーター』にはそんなに冷淡なんだ。シリーズ最新作でマックスが大暴れしたりティラノサウルスが大暴れしたら、やったぜ! これだよこれ、と言うくせに今度のターミネーターが大暴れする様にはみんなフフンとか言う。何だよそれ! おかしいよ! そりゃ『マッドマックス』や『ジュラシック・パーク』最新作に比べれば『ターミネーター : 新起動』は映画としちゃド下手糞ですよ。だからってそういうことじゃないんだ。これはもっと何だ、現在進行形のシュワルツェネッガーを見るための、何ていうか橋幸夫ショーみたいなものなんだ。何をバカなことを、と言うなら、たとえば完全に歳をとって適当な演技しかしなくなったメルギブ主演の『怒りのデス・ロード』とか、何かあんまり気は進まないけどギャラくれるって言ったから、という風情のサム・ニールが出てくる『ジュラシック・ワールド』とかを想像してみてほしい。みんながそれでどんなに微妙な気持ちになるか。作り手としちゃそういう結果が見えているからキャストをほぼ全取っ替えして、一から出直したわけですよね。でもシュワルツェネッガーは敢えてそこで出てくるんですよ。何かあの人も昔はよかったけど……ねえ……ジジイになっちゃって……と言われるかもしれないのに。というか誰がどう見たってそう言うしかないのに。この勇気はどうだ。結局ターミネーターかよ、と言われることをあの人は怖れていない。むしろ俺しかできないと思っている。そうは言ったってもう完全にジジイですよ。ねえ。それでもやった。やってみせた。ポンコツのジジイが。手作りのメリケンサックを手に最新最強の殺人マシーンに挑んでみせた。そういう姿に俺は感動しましたよ。と考えれば『ターミネーター : 新起動』のどこを笑えようか。みんなそういうことをですね。もうちょっとよく考えてほしい。いいですか!

と、ある日届いたシュワルツェネッガー最新作『Maggie』についてお話ししようと思ったらつい熱くなり、完全に話が明後日の方向に行ってしまいました。しかたがないのでシュワルツェネッガーがゾンビと戦うこの最新映画についてのお話は明日以降に続きます。わはは!