ブラック・レイン(1989)

まあ大した出来でもないんだが年に何回か見てしまう映画というのがあって、『ブラック・レイン』はその筆頭ですけれども。松田優作の生命を賭した熱演!というあたりが喧伝されがちな本作ですが、まあ何かそういうシリアスな物の見方も当然ある。あるんだが、何で今さら『ブラック・レイン』の話をしているかといえば本作が「折に触れて物真似したくなる映画」という一ジャンルの代表格であるからなんですね。

折に触れて物真似したくなる映画。自分でも何言ってんだか全然分かりませんが、要するに飲み屋とかで映画の一場面とか台詞とかを再現してウヘヘへと笑うような、そういう類いの映画です。別に馬鹿にしてるんじゃなくてそういう再現が何か気持ちいいという。みんなもそういう映画あるでしょ?ないの?ないのか!寝よう!
しかし『ブラック・レイン』はそういういい台詞、いい態度の宝庫だ。
たとえば日本にやってきたマイケル・ダグラスがヤクザの事務所に殴り込み、強制捜査を行う場面でガッツ石松の怒鳴る
「たばこしか持ってねえよ!」とか、
スピルバーグ夫人ケイト・キャプショー(難波のホステス)が道端のホームレスに100円渡して
「コレデパンデモ買ッテ」とか、
意味は分からないが、あるいは意味があったにしても大したものではないような、とにかく飲み屋でリピートしてエヘヘヘと笑うにちょうどいい台詞がこれでもかと詰まっている。

映画の冒頭からして奮っていた。優作がレストランにヌラーと現れて、そこで飯をくっている歳行ったヤクザに挨拶すると。
「久しぶりだな」
「ああ、しばらくだ」
優作は「長生きはするもんだ。ああ?」とか言いながらヤクザの背後に回り、胸ポケットから贋札の原版を抜き取る。
すると三下が「オヤブンガダマッチャイネエゾ」
と言うけれども、用が済んだ優作は意に介せずに帰ろうとする。
そうしたら歳行ったヤクザが
「相っ変わらずヒヨッコだな」
と。
背後からディスられた優作がここでまたヌラーと振り向いて

「ああ?」
と目を剥く。

皆さんこの「ああ?」は記憶に強く刻まれているようで、ここを物真似される方は多い。けれどもそれだけだと実は十分じゃなくて、「ああ?」に至るまでの一連のやりとりが重要なんですね。特に三下の着ている白いトックリのセーター、およびこの男が発する「オヤブンガダマッチャイネエゾ」という、何でお前だけ片言なんだよ、という台詞が凄く重要です。この台詞でビール2杯いける。

映画を総体として捉えてテーマから演出から演技から総合的に論評する、というのがもちろん映画評論の本流でしょう。が、まあ何かそういうことを全部スッ飛ばして、部分部分の気持ちいいところというかアホみたいなディテールだけを熱っぽく語るバカがいてもいいんじゃないか。と最近思います。というか俺はそういうことしかできないような気が最近してきた。

あとは製鉄所での若山富三郎と優作のやりとり、
「ワレ歳なんぼや。もうちっとは生きたいのんと違うんかい」
「あんたほど長生きするつもりはねえよ」
若山先生に間髪入れず口答えした後、優作がクワッ!という顔をする。この人を馬鹿にした態度。このクワッ!だけでなく、それまでのやりとりまで含めて完全コピーしたい。こうした一連のムーブを身につけたら、今度は飲み屋はもちろんのこと、会社とか打ち合わせとかにおいても完全再現していきたいものです。つまり飲み屋を超えて日常生活にまで活かすことができるという、これが「折に触れて物真似したくなる映画」の神髄ということですね。クワッ!


【追記】さらに言えば映画の終盤、優作が若山先生と手打ちということになりますが、今まで散々暴れまくったケジメをつけんかいと、それができなければ今日の手打ちはねえぞ!と若山先生に怒鳴られる。そこで優作が頭を下げずに、若山先生の目をジッと見たまま「……はい」と答えるという、このお前全然反省してねえだろという態度も日常生活において活用したい。